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何年経っても形が定まらず。イロイロ、テキトーに書いてます。
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強靭な健脚と頭部の巨大な角を使い、地中をも掘り進む巨大な飛竜の名はディアブロスである。

主に熱帯や砂漠を根城とするこの角竜は、そのテリトリーに侵入したものは全力で排除する。
激しい咆哮で敵を怯ませ、棍のように太くしなる尾で叩きつぶし、強烈な突進と鋭い地中からの奇襲は全てを粉砕する。

その中でも特に巨大で、堅固な甲殻が白銀に輝く一本角の亜種をモノブロスと呼ぶ。

「幻の角竜」と呼ばれ、出没すること自体稀である、この飛竜がなぜ目の前にいるのか。
軍の中でも特に”目”と呼ばれる特務兵であるタイガであっても、この突然の状況が理解できなかった。
獲物を視認した白角竜は身を翻し、あっという間に地中へと姿を消す。その動作の意味を理解しながらもその振動に身動きができない。

この状況を速く、隊長に伝えなければ、いや、今この場にいる兵どもに退避命令を出すのが先か。

いつもの冷静さを失った頭が混乱したそのコンマ数秒のうち、小刻みに振動を繰り返す地表の異変に気がつく。水面で言えばさざ波に見えるそれは、角竜が地中から獲物を狙い、飛び出さんと力をためていることを示している。

見える。
その地獄へといざなう”旋律”がひどくゆっくりと「見えてしまう」。

ガアァァァアアア!!!

咆哮一閃、地中から噴火するマグマのごとく中空へと飛び立った角竜は、そのたくましくも凶悪な角にて兵士たちの体を引きちぎり、白亜の体に血の花を咲かせる。

咄嗟に屈んだことで即死を免れたタイガであったが、直後に控えていた銃士の上半身が消し飛ぶのを見、その傍らを舞うのが自身の右腕と理解したのも柄の間、地面にたたき落とされる衝撃で視界がゆがむ。

首を回すこともできない状況で”伝達珠”が右半身ごともっていかれたことだけが悔やまれた。
色気のない話だ、こういうとき他に思い浮かぶことはないのか。抱いた女や仲間の顔、家族達。
・・・母親か。そういえば随分会っていない。

翼を大きく広げ、低重心の姿勢をとると、角竜は突進の構えをとる。

・・・畜生なんて尊大な姿だ。
砂嵐をまとった雄々しい足が振り上げられた。視界に被さるように鈍く光る爪が近づく。

「ち、くしょ・・・。」

それがタイガが見る最後の景色になった。






平野を走り行く、一人の影。
滝のような汗がその女の首すじを伝う。

機兵団歩兵連隊・遊撃隊隊長リィナス・ブランセルバック。
女性の身でしかも他国者の血を引く彼女は、しかしその類稀なる格闘センスを買われ小隊長を拝命している。
今回は本来の彼女の任務ではないが姫君を迎える女性士官の一人として、列席を命じられていたのだった。

細く色が薄いおかげでその一つ一つがつややかに煌めく金の髪は、つい先刻までは見事に結いあげられていたが、結い留めやかんざしは既に外され、今はなびく風そのままに流れている。
迎賓用の底高の靴も随分前に脱ぎ棄てられている。走りまわっているおかげで、足裏には血がにじむ。

伝う汗もこめかみから遂には顎の淵まで落ちたが、それを気にしている暇はない。

ギィイアアアアアア!!

後ろから迫る凄まじい咆哮の後、深林の巨木に見紛う白き巨大な尾が繰り出される。
自分の体を後ろから薙ぎ払うのを狙うそれに対し、急停止をかけると無謀にも迫りくる巨塊に向けて突進する。激突の寸前、バネのように下半身を跳ね上げ一回転する。自分の頭の下、その金髪スレスレを尾甲が高速で行くすぎるのを確認すると着地するや否や、また全力で飛びつく。

狙うは一つ、奴の一本角。

必殺の薙ぎ払いを寸ででかわされた白角竜は、回転力そのままに、今度は自慢の角を突き出してくる。それを逆手にとって、カウンターの一撃を見舞う。

「ぃやぁあ!!」

バキッ!

金属の砕ける音と共に握っていた右手がしびれる。最後のかんざしが根元から折れ、これで手持ちの「武器」はなくなった。

「くっ、無駄か。」

あわよくばと放った渾身の一撃は角への致命傷になるはずもなく、そのまま額を蹴って回避に移る。しかし角竜はその機を見逃さない。

グゥウウウンッ!

「ぐぁっ!」

その強靭な後ろ足を踏ん張り、胸をそらす形で首を振り上げた角竜。
受け身をとり直撃を受けることは免れたが、絶対的な質量の差がある。甲殻の張り出した肩からタックルを受けた左腕は異常なほどはれ上がり、熱いような冷たいような気色の悪いしびれを生み、そこから次第に激痛へと変わる。

「ッ! はぁっはぁっはぁっ・・・」

しかし、駆けるのを止めてはならない。一地に留まれば、必ず地中からの突進の餌食になる、地中から引きずり出すすべをもたない今の状態では、地上に引きつけなければ後がない。

悠長に回復薬を飲んでいる場合ではない。彼女は腰の革袋に忍ばせた活力剤を一息に飲み干すと、己の回復力に懸けた。
式典用にあつらえられた女士官用の長い丈のローブを膝下でちぎり走りやすくしたが、それは下の皮鎧とともに、竜との幾度かの邂逅でほとんど擦り切れてしまっている。武器らしい武器を持たずとも、常人離れした運動能力を生かし戦場を駆けれたのも、相手が人間であったからこそ。さしたる武具もない今は反撃もままならないが、姫の安全のため、なるべく注意をこちらに引きつけなければ。

自分の位置と守るべき者の位置を把握しながら、角竜の間合いからは僅かに逃げる。
敵を斬り、倒し、打ち砕いてきた自分にとって「守る」行為のなんと難しいことか。
しかしこれでは遊撃隊長の名が廃る。

「・・・さて、どうしたものか」

左腕をかばいながら、今はただひたすらに駆けることに専念した。

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